ソムリエ資格を持つDDVセンパイ(仮名)が、極端に辛いものを習慣的に食べていると味蕾が壊れ、味覚が麻痺すると恐ろしいことを言っていたので、素直な私はなんとなく蒙古タンメン中本を控えるようになったのだが、するといつの間にか辛いものを食べたいという欲求そのものが失くなってしまった。
辛さとは慣れるにつれ耐性が上がりどんどんエスカレートしていきがちだが、これもひとつの依存かもしれない。
そして辛さを追求し始めると、それは食ではなくアミューズメントの追求に堕すのだ。
これは食への冒涜かもしれない。
その中本から独立した蒲田の荒木屋も、かつては私のファーストプライオリティだったのに、そのような理由で全く行かなくなってしまったのだが、荒木屋を検索する度にトップに表示される出雲そばの荒木屋は、何年も前からずっと気になっていた。
SEO対策など恐らくしていないだろうが、それでも検索でトップに来てしまう荒木屋、なんと創業200年を超える老舗中の老舗だそうで、この機会に是非とも訪れたかった。
入口にある名簿に名前を書いて順番を待つシステム、名前を書いてから数えてみれば、私はなんと約40番目。「10番先まで20~30分」と書かれている目安を信じれば、私の順番はどんなに早くても80分先である。
しかし、名簿に名前を書いたら列に並ぶ必要もない訳で、少し先にある他の蕎麦屋で蕎麦を食べながら時間調整することにした。
それがこちらのお店、かねや。
ここも20人程が並んでいたが、それでも荒木屋の半分である。
なんだ、ビールはアサヒか。
しかし、山陰地方のビールのシェアはアサヒが圧倒的であることを、この後に知ることとなる。
来ました、出雲名物割子そば。
「わりこそば」だとずっと思っていたのだが、店員さんは「わりごそば」と発音していた。
昔懇意にしていた六本木の取引先の近くに出雲そばの店があり、そこをよく利用していた私は、出雲そばとは音威子府そば並みに黒いものだと思い込んでいたのだが、かねやのそばは極普通の田舎そば、といった趣きだ。
そしてやや太め、茹で加減は硬め。
出汁の利いた汁は甘め。
シンプルに旨い。
一段目を食べ終えたら、残った汁と薬味を二段目へ。二段目を食べ終えたら同じ手順で三段目へ。
最後に蕎麦湯を頼んでフィニッシュ。
湯呑みで出てくるのが出雲流である。
会計を済ませて荒木屋へ戻ると、まだ1時間程しか経過していないのに、私の順番はとうに過ぎていた。
私同様他の店に先に行ったり、待つことに堪えられず諦めたりする人が結構多いのかもしれない。
再び名前を書いて待つ気もおきず、後ろ髪を引かれる思いで立ち去ったが、冷静に考えてみればかねやに並ぶよりも、そのまま荒木屋で待ち続けた方が早くそばにありつけたかもしれない。
気分は複雑だ。