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留萌の闇

ところで、pink floydのthe dark side of the moonは、今でも連続チャートインのギネス記録を持っているのだろうか?

 

対比とか、相対とか、裏表とか、正常と狂気とか、そういう二元論的なテーマを感じるこのアルバムを、何故唐突に思い出したのかと言うと、留萌の町には宿命的に闇しかないので、暗いのにも関わらず「dark side」という言葉が当てはまらない気がしたからだ。

 

both sides are dark

なのだ。

多分。

 

その荒涼とした雰囲気に惹かれている私は、居住者ではなく旅行者だからこそ呑気にそんなことが言えるのだろうが、いつ来ても、どんな天気だろうと、宿命的に染み付いた闇を感じるのであり、その闇を感じるためにこの地を訪れているとも言える。

 

今回、留萌は目的地ではなく経由地なので、象徴的な場所だけさっと巡って次の目的地へと移動することにした。


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まずは千望台。

中心部の南にある小高い丘で、市を一望出来る。

派手さは皆無だが、この景色が大好きだ。


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千望台から少し下ったところにある了善寺の三船殉難の碑。

 

私は、歴史の闇に葬られた三船殉難事件という悲惨極まりない事件を、いや、事件というより虐殺を、犯罪を、留萌に来るまで全く知らなかった。

ポツダム宣言を受諾し日本が降伏して終わったはずの戦争を、勝手に宣戦布告して北海道を奪おうとしたソ連の暴挙は、北方領土の不法な占領だけではなかった。

樺太からの民間人の引揚船3隻が、留萌沖でソ連軍の潜水艦から攻撃を受け、1700人以上が犠牲になったというこの事件。

2隻は沈没、応戦した1隻は深手を負いながらもソ連の潜水艦を撃沈しなんとか留萌に到着したそうだが、その甲板は血で染まり、多くの死者がでたという。

話は逸れるが、私は2018年にジョージア(ロシア語でグルジア)を旅した時に、ジョージア国内にロシアに占拠されたアブハジア南オセチアという地域があることを知った。

その手口はまさにウクライナと同じで、親露派の多い両地域の独立を勝手にロシアが承認、軍事侵攻して武力で奪ったのだ。

隙あらば領土を広げるために手段を選ばないのが、伝統的なこの国のやり方なのである。

プーチンとは、かつてのソ連の指導者のDNAを純粋に受け継いだ大統領なのかもしれない。


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姉妹星の碑。

これも留萌らしいといえば留萌らしい悲しい碑である。

昭和31年の真冬、お使いに出た中学1年生の姉と小学3年生の妹が、その帰り道ホワイトアウトに遭遇して家の前で力尽きて倒れ、猛吹雪は2人の身体を完全に雪で覆ってしまい、2日後まで発見されなかったという痛ましい事故の起こった場所だそうだ。


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三毛別羆事件現場。

こちらは留萌より北の苫前だが、吉村昭の小説「羆嵐」の題材となった、史上最悪の羆害の起こった場所である。

1915年(大正4年)12月、この地区の集落が所謂「穴もたず」の羆に襲われ、3日で8人も殺されたという忌まわしい事件だ。

こんな山奥によく集落を作ったものだと変に関心してしまう程深い森のなかのこの場所は、確かにいつヒグマが現れてもおかしくないような雰囲気があり、また、事件の事が脳裏に刻まれているからなのか、なんとも言えぬ不気味さや禍々しさを感じて、一刻も早く立ち去りたくなる。おまけに前回は同行者がいたものの今回は一人きり、わざわざここを訪れるようなもの好きな観光客も他におらず、5分ほどの滞在で逃げるように引き返した。

ちなみにこの地区の元林務官の執筆によるこの事件を扱ったノンフィクション「慟哭の谷」は、ノンフィクション故の客観的かつ第三者的な視点が「羆嵐」より恐怖を感じさせる良書であった。ご興味のある方は是非ご一読されることをおすすめする。

また、全くの余談だが、この事件現場に至る一本道は「苫前ベアーロード」と名付けられており、かわいい熊の親子のイラストと共にその名を示す看板がいくつも設置されていた。更にあろうことか現場の近くには「ようこそ羆嵐へ!」という大きな看板まであり、なんとも微妙な気持ちになった。

確かに、私自身も事件現場を見るためにここまで来ていることに間違いはない。

しかし、野生動物との共生、共存は、世界共通の課題であり、その為にこの事件を風化させないことは意義のあることだと思う。

この地域の観光資源の乏しさは私も肌で感じている部分ではあるが、よりによって可愛い熊のイラストに「ベアーロード」「ようこそ羆嵐へ」という行政の感覚は、なにか大事な観点がズレている気がしてならない。

 

この後は山越えドライブでオホーツク側へ抜けた。