Everything in Its Right Place

釣り、旅、音楽、食事、酒場探訪、ジョグ等々

謎のアジア納豆/高野秀行


f:id:OKComputer:20200723115409j:image

エンタメを純文学より下に見ている気は毛頭ないが、エンタメ系のハードカバーを買うのは憚られ、やはり文庫化を待ってしまう。

いや、冷静に考えてみたら最近では好きな作家の純文学の本でさえ、新刊が出たら即買おうと思えるものは少ない。いや、殆ど無い。

期待はずれだと失望も大きいし、購入して積ん読している間に文庫化されてしまうことも少なくなく、そもそもがハードカバーは持ち運びに適さないので通勤読書には向かないのだ。

 

しかし、少なくともこのエンタメノンフィクションだけは、4年前にハードカバーで出版された時に読んでおくべきだったのかもしれない。

 

高野秀行氏のツイッターをフォローしている私は、当然この本の存在を知っていたし、東南アジアでも一部で納豆が食べられていることを知っていた。

実際、3年前にタイ北部を旅した際、チェンマイのシャン料理店で納豆料理を食べたこともある。


しかし昨年旅したネパールとミャンマーにも納豆があったとは!

嗚呼、食べてみたかったなあ。

私は毎朝欠かさず納豆を食べているほど、納豆愛に満ちているのである。

 

それにしてもこの本は予想に反して相当アカデミックな本だった。

真摯に納豆と向き合い、歴史的という縦方向、地理的という横方向を徹底的に突き詰め、研究者や生産者からの聞き取り調査に筆者の仮説を加味し、世界の納豆の普遍性を導き出すことに成功している。

なんだか猛烈に感動してしまった。

 

「ムベンベ」や「怪獣記」のようなUMA探索もの、「ワセダ三畳」や「アジア新聞屋台村」のような人情もの、「アヘン王国」や「西南シルクロード」のような探検もの、「怪魚ウモッカ」や「ブータン」のような脱力もの、それらいずれとも異なるジャンルでありながら、いつもの高野本でもある。大傑作だ。

これは文庫化を待っている未読の本、たとえば大きな賞を受賞したソマリラドなんかも、直ぐに読んだ方がいいかもしれないなぁ。

 

ところが。

巻末の「謝辞」を読んでまた驚くことになる。

読了の2日前に訪れたばかりの白金高輪の中華料理店、「蓮香」が中国貴州省の納豆(に近い豆鼓)が日本で唯一食べられる店として唐突に現れたからだ。

勿論その日の私のカバンにはこの本が入っていたばかりか、一緒に食事をしていた某出版社勤務の女性編集者に、優れた小説とは小説世界と現実の私がシンクロすることが多いのだと熱弁を振るっていたのだった。

まさか高野本と私がシンクロするとは...。

そしてもう少し早く読了していれば、この店で中国納豆を食べられることがわかったのに!

そういう意味では正に今読むべき本だったのかもしれない。

 

うーん、しかし優れた小説に限らずノンフィクションでもこれが起こったか。

やはり良書とは人知を超えた何かをもたらせる媒介なのだろうな。

 

いずれにせよ、良い読書体験であった。