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椎名誠パタゴニア~あるいは風とタンポポの物語り読了

エンタメ作品を純文学より下に見ている気はさらさらないが、それでも島根鳥取旅行の際に、「北海タイムス物語」の次に読んだエンタメ小説は、実にキツかった。

 

圧倒的に浅いのだ。

 

北海タイムス物語の横に、店員さんの熱いコメントカードが添えられて展開していたこの本を、予備知識なくついでとばかりに手にしたのだが、個人的には大ハズレ。

思わせ振りなタイトルも、タネがわかればダサいことこの上ない。

勿論、店員さんのオススメで良い本に巡り会うこともある(あったよな)が、自分にとって大事な本は、やはり自力で(つまりは運と縁で)巡り会うしかないようだ。

 

そんな訳で、口直しに男気溢れる文章が読みたくなり、積ん読の山から手にしたのは椎名誠パタゴニアである。

 

初版発行は1987年だが、この物語の元になっているTVドキュメンタリーの為のパタゴニアへの旅は1983年。

かのイヴォン・シュイナードが創業したパタゴニア社の日本支社が出来たのが1988年だそうなので、恐らく日本ではこの頃パタゴニアの名を知る人は殆ど居なかったのではないだろうか?

 

椎名誠のエッセイや旅行記と言えば、怪しい探検隊シリーズに代表されるような軽みのある文章と豪快さ、そして時折垣間見える繊細さ。

そんな世界を期待して読み始めたのだが、これは「白い手」に通じる繊細さと、「そらをみてますないてます」に通じる、奥さんへの愛を感じる内省的な物語だった。

何故旅行を終えてから本の出版まで4年もかかったのか、読めばわかる。

 

パタゴニア大自然という大きな世界と、夫婦というミニマムな世界のコントラストが印象的で、そして夫婦というミニマムな世界の方がパタゴニアよりも奥深いという、深い愛を感じる本だった。

あとがきでは不覚にも落涙、椎名誠旅行記なのに(笑)。

 

内省的で硬質な筆致。

 

深みとは結局のところ、一人称の強さなのだろう。

 

村上春樹の「ノルウェイの森」に出てくる永沢という東大生は、「時の洗礼を受けたものしか読まない」といい、ダンテ、バルザック、ジョセフ・コンラッドディケンズを愛読していた。

一方で、確か村上龍の言葉だったと思うが、「小説の使命は時代を翻訳すること」というものもある。

どちらも正解ではある。

普遍性を持つ物語もあれば、"今"読むからこそ、意味深いものもある。

 

今回は時の洗礼を受けて残るものと淘汰されるものの対比を味わった読書体験だった。

 

読み終えたパタゴニアは、上田を訪ねたついでにパタゴニア大好きなDDVセンパイ(仮名)宅に置いてきた。

 


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