まさか、白の4ドアセダンなどという、楽器よりもゴルフクラブ(!)が似合いそうな、そんな完璧なオッサン車を自分が所有することになるなんて、ついこの前まで考えたこともなかった。
正に人生、一寸先は闇である。
しかし、客観的に見れば私のスペック自体がいつの間にやら完全なオッサンなのだ、端から見たら何の違和感もないのかもしれない。
ところで「頑張ってるオジサン」というのは、決して見映えの良いものではない。頑張って見えている時点で既に負けているのだ。
オッサンらしい車を、気負いなくオッサンらしく乗りこなす方がむしろ粋なお年頃なのかもしれない。
といいつつ、実はこれは只のオッサン車ではないのですよ。
2009年式W211メルセデス、E320CDI。
コモンレール・インジェクション方式V6・3000ccディーゼルターボエンジンを搭載した、所謂クリーン・ディーゼルである。
エンジンのスペックは最高出力211ps@4000rpm、最大トルク55.1kgm@1600−2400rpm。
4600rpmがレブリミットの回らないディーゼルエンジン故に馬力は控えめながらも、ガソリンエンジンの3500ccどころか、V8・5000ccのモデルをも凌ぐ(!)尋常でないトルクがもたらせる加速は、かなり凶暴だ。
最高速度250km/h、0-100km/h加速6.8秒と、そこらのスポーツカーにも勝るとも劣らない俊足ぶり、危険なことに高速での追い越しがとても楽しいのである。
後方注意、覆面注意だ。
あと、個人的な事情だが、この一世代前のA208メルセデスに14年も乗っていたこともあり、A208の進化系であるW211こそが最も完成されたデザインであるように私には見える。
現行モデルからは二世代前ということで、球数が減った分、むしろ型落ち感は薄れ、クラシカルな魅力と風格が出て来ているように思えるのは単なる身贔屓ってヤツかな?
更に、いくら10年落ちの車とはいえども、20年落ちの車から乗り換えた身には、最新技術が惜しみ無く投入された近代的な車に思える安上がり。
そもそも化石燃料で走る車の本質ということに関して言えば、1990年代に既に確立されていると断言して差し支えあるまい。
どんな装備が搭載されていようと、それらは全てオプションの範疇に過ぎないのだ。
私も歳をとりました。
それなりに長く生きてます。
だからこそ、歳相応に穏やかに生きたい。
その一方で、内なる狂気やある種の凶暴さも失わずにいたい。
おりこうさんになってたまるか!
恥知らずになってたまるか!
そういう意味では、この、羊の皮を被った狼、いや、この図太いトルクは狼よりも暴れ牛と言った方がしっくりくるか?
とにかく、大人しい見た目の奥に秘めた凶暴性をもつこの車は、私のこれからの人生のある種の指針にだってなりうるかもしれないと、感じ入るものがある。
死んだ子の歳を数えても仕方がない。
最愛のCLK320カブリオレは私のもとを去ったのだ。
これから先、私はこの狂った羊(の皮を被った暴れ牛)と走っていく。
トランクにはゴルフクラブなんてものは積んでいない。
トランクの中身は虚無と狂気と衝動だ。