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山本文緒「自転しながら公転する」読了

山本文緒が亡くなった。

 

私は彼女の熱心な読者ではなかったけど、好きな小説を100冊挙げろと言われたら、「群青の夜の羽毛布」は間違いなく入ると思う。

この作品はライトノベルの名を借りていながら、人間の業を描ききったドストエフスキーに比肩する重層的かつ多声性をもった人間ドラマだ。

 

山本文緒は作家としては一度死んでいる。

鬱病の悪化で書けなくなったのだ。

それは本人もエッセイに書いているが、その事実により私は山本文緒はとても誠実な作家なのだと確信した。

イライラするような登場人物(それはホフラコーワ夫人を思い出させた)、ゾッとするような悪意(それは大審問官を思い出させた)、素性のしれない人物(それはスメルジャコフを思い出させた)、幽閉された父親(それはいまわの際のゾシマ長老を思い出させた)、そして無償の愛(アリョーシャだ)、こんな凄いものを描いて無事でいられる訳がないのだ。


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文庫化をまっていた最期の長編を、なんだか罪滅ぼしのような気分で慌てて購入した。

相も変わらぬ、ドストエフスキー並の多声性(ポリフォニー)を持つ、身も蓋もないえげつない人間ドラマだ。

サラッと読めてズシンと残る、素晴らしい小説だ。

 

そして、プロローグと繋がったエピローグを読んでいる間中、鳥肌が立ちっぱなしだった。

狭い半径で描かれていたと思っていた物語は、意外な形で壮大な拡がりを見せ、そしてこれは山本文緒的なSFであり、未来予想図であり、憂国の物語でもあった。

 

勿論ご本人の存命中に読了したところで、感想を伝えたり、感謝を伝えたりするような機会はなかっただろう。

 

しかし、もう山本文緒の新作が読めないのだという哀しみと相俟って、取り返しのつかないミスをした気分が数日間抜けなかった。

 

合掌。