独善的無能スタッフの尻拭い的なご挨拶に伺う為にスーツを着用して出社したある日。
しかしこの日の夜、BLACK FLAGの来日公演を観に行く予定のあった私は、挨拶を終えるとラフな格好に着替えるために一旦自宅に帰った。
アナーキズムを象徴する意味を持つ伝説的なバンドを初めて生で見る機会にスーツを着て出掛けることは、個人的には赦されざる行為に思えたのだ。
自宅の最寄駅に隣接するキタナシュラン系の定食屋、喜楽亭。
赤羽の米山、立会川の鳥勝など、キタナシュラン系の飲み屋は大好きなのだが、定食屋というジャンル自体に馴染みがなく、この街に移り住んで18年も経つのに1度も訪ねたことはなかった。
しかしこの日は空腹な上に急いでいたので、吸い込まれるように店内へ。
おおっ、店内は更に雑然としているな。
悪く言うと清潔感がない。
米山も鳥勝も建物は古くてボロボロだけど、不潔な感じはしないんだよな。
一抹の不安を感じながら瓶ビール。
おっ、キリンラガーの大瓶だ!
好感度急上昇。
オーダーはみんな大好きオムライス!((C)福島瑞穂)
ムムム。
普通に旨い。
サラダもスープも普通に旨い。
スティーリー・ダンのウォルター・ベッカーのような風貌のおじいさんのワンオペだが、良い仕事されてますよ、これは。
「今日はもう上がりですか?」
とウォルター・ベッカー氏。
そりゃスーツを着ているサラリーマンが昼からビールを飲んでいればそう思うのが当然である。
家でテレワークをしなければならないのだが、そんな説明は面倒臭いので、「はい。」と一言で終わらせた。
AOR畑のウォルター・ベッカーごときに、BLACK FLAGの恐怖とグレッグ・ギンのギターがわかるはずがないのだ。
とは言え、他のメニューも試してみたくなる良い店でしたな。
なかなか定食屋って脚が向かないジャンルではあるが、また来たいと思わせる店であった。
その夜のBLACK FLAGの公演は、第一部がMY WARの完全再現、第二部がヒット曲メドレーという充実の内容であった。
ベースとドラムとボーカルは酷いものだったけど、そしてDepressionなど一部の初期の曲は堪え難く遅かったけれど、グレッグ・ギンのギターはちゃんとグレッグ・ギンの音が鳴っていて、これがBLACK FLAGだという説得力があった。
軍隊並みの規律と暴力によりバンドを支配していたグレッグ・ギンも御年69歳。
穏やかな好々爺と化して終演後は気軽にサインや写真撮影に応じており、そして無邪気でいきがった若者が馴れ馴れしくグレッグ・ギンと肩を組んで写真を撮っているのを見て、微笑ましいと言うよりは胸糞が悪かった。