裕福な家庭で育ち、優秀な成績で大学を卒業したアメリカ人の青年クリス・マッカンドレスが、卒業と同時に全財産を慈善団体に寄付し、家族にも何も告げずに放浪の旅に出て、2年後にアラスカで遺体で発見されるまでを追ったノンフィクションである。
作者ノートという前書きで著者は、
「私は公平な伝記作者であろうとするつもりはない。マッカンドレスの奇妙な物語は私の個人的見解であり、悲劇を公平無私に解釈することは出来なかった」
とわざわざ断っている。
読み進めていくとわかることだが、著者自身の経験をマッカンドレスの放浪に重ねているのだ。
そして死んでいたのが自分で、生き延びたのがマッカンドレスであってもなんら不思議はない、と。
しかしそういった叙情に流されることなく、綿密な取材と俯瞰的な洞察で、淡々と足取りを追い、むしろ余計な感情を全て排除した硬質な筆致で書かれている。
にも関わらず、「公平な伝記作者」であることを自ら否定するほどに、この作者は公正さを大事にしていることがわかる。
生と死の分水嶺、正気と狂気の分水嶺、対立する概念を隔てるものは、ほんの紙一重なのだということを、改めて思い知らされた。
私にも「一歩間違えれば死んでいた」という経験は何度もあり、運悪く死んでしまった人の中にも、あと少しの好運があれば生き延びることが出来たのに、というケースはそれこそ無数にあるだろう。
私の中にもマッカンドレスに呼応する部分が少なからずある。
放浪も、冒険も、探検も、旅も、程度が異なるだけでベクトルは一緒だ。
私は彼のような放浪は出来ないけど、旅は続けるつもりだ。
そして、いつか行きたいなと漠然と思っていたアラスカに、何としても行かねばならぬという気持ちになった。
読み終えたこの本は、我らがバンドのマッカンドレス、リーダー(仮名)に進呈した。