Everything in Its Right Place(SUB3.5 or DIE)

マラソン(PB3:36:04)、バンド(ベース担当)、海外独り旅(現在26ヵ国)、酒(ビール、ワイン、ウイスキー)、釣り(最近ご無沙汰)をこよなく愛する後期中年者の日常。

Hello、Mercedes

車には元来何の興味もなく、学生時代には免許すら持っていなかったのだが、就職先のオファーにより卒業前に慌てて免許を取得した。

 

社会人1年目に、幼馴染から無償で譲り受けたシビックが私の初めての車だ。

良い車だった。

ハッチバックの合理性(広い車内、小回りの利く操作性、その気になれば荷物もかなり積める点)にも惹かれ、以降ハッチバックが私の基準となる。

 

2台目の車は、犬の散歩コースにあった近所の輸入中古車ディーラーに駐まっているのを見て一目惚れしたプジョー205だった。

フランスのエスプリってヤツだろうか、とにかく心惹かれるハッチバックだ。

しかし、走れば楽しい車だったが、頻発するマイナートラブルの類いには大いに悩まされた。

(勿論マイナーでは済まないトラブルもあった)

 

もう輸入車にこりごりして国産に乗り換えることを真剣に考えていた頃、社内の唐突な人事異動で私の隣の席にシトロエンZXを所有している男がやってきた。

それが今でも呑み友達であるDDVセンパイ(仮名)その人である。

彼は私とは真逆のカー・フリークで、ラテン車をこよなく愛し、NAVIという雑誌(それは車のスペック云々ではなく、豊かなカーライフを提案するような雑誌だった)を愛読していた。

 

ある日、例の犬の散歩コースにある輸入中古車ディーラーに94年製プジョー306が入庫していた。

顔馴染みの店長に話を聞くとワンオーナー、セカンドカーだったので走行距離も15000kmと少なく、状態は良いという。

入庫したばかりでまだカーセンサー等にも載せていないとのこと。

 

DDVセンパイ(仮名)に早速相談すると、93年以降のフランス車の信頼性は飛躍的に向上しており、アタリのついた1万キロから5万キロぐらいまでがフランス車の最も美味しいところだと言われ、すっかりその気になって週末に試乗させてもらうことにした。

 

驚いた。

これが本当にプジョーなのか?

運転席に座りハンドルを握った瞬間からピタリと馴染む感覚があった。

205が割りと突き上げの激しいスパルタンな乗り心地だったのと対照的に、ソフトでしなやかな乗り味、その場で205の下取りと306の購入を決めた。

 

運転して楽しいし、所有する喜びもあり(眺めるだけでも充たされた)、何より壊れない。

車っていいな。

DDVセンパイ(仮名)にあやかり、私もNAVIを購読するようになった。

世界は乗ってみたい車で満ち溢れており、この頃から私の中で車が単に移動の手段に留まらない、生活を共にするパートナー的な意味合いを帯びてきた。

 

数年後。

またしても犬の散歩の途中で例の輸入中古車ディーラーを通ると、漆黒のプジョー306カブリオレが入庫しているのを発見した。

それは、アルファ156プジョー406クーペと並び、その当時の私が最も欲しい車種の一つであった。

顔馴染みの店長に試乗を頼んだのは言うまでもない。

試乗した瞬間に恋に落ち、いてもたってもいられなくなったが、とは言え今所有している大好きなプジョー306を手放すのも気が引けた。

割りと近所に住む割りと仲の良かった後輩が車を欲しがっていることを知ったので、プジョー306は下取りに出さずに彼女にプレゼントすることにして、私はカブリオレを購入した。

行く末を案じる必要のない別れというのも、手離す車へのひとつの愛の形だ。

 

プジョー306カブリオレは、良くも悪くも癖の強い車だった。

ピニンファリーナ・デザインの漆黒のボディと、ボディカラーと対照的な内装の赤いレザー・パッケージは、スタンダールの小説的に惚れ惚れするような美しさだったが、ノーマルな306に較べるとスポーティな仕様で、乗り心地はスパルタンだし、ハンドルは極端に重かった。 

小振りなボディの割には小回りが利かず、後部ウインドウはビニール製で後方視界は絶望的に悪かった。

布製の幌は遮音性が著しく低く、100km/hを超えると音楽は全く聴こえなかった。

それでも、楽しい車だった。

夏の夜に屋根を開けて適当に走り回るだけで幸せな気持ちになった。

幸いなことに故障の類いも一切無かった。

 

私にとっての最高の車を手放すこととなった原因は、結婚、というヤツであった。

 

国産車しか運転したことのない戸籍上の配偶者には、私の色が付きまくった癖の強いプジョー306カブリオレが運転しにくくて仕方が無い、というよりほぼ運転出来なかったのだ。 

 

今なら分かるけど、いや、当時は全く分からなかったけど、私と愛車との関係性に対する嫉妬も少なからずあったのだと思う。

 

車を買い換えることに決めた時に私が提示した条件は二つ。

屋根が開くこと、4人乗れること、だ。

 

先の記事で私が別れを惜しんだ愛車CLK320カブリオレは、こうして私の元にやってきた。

どちらかと言えば、ポジティブではない理由だ。

しかし乗り込むにつれ、私は圧倒され、そして馴染み、深く愛し、極小トランクしか持たない趣味の釣りには全く向かないと車種だというのに、最早この車以外に欲しい車など無い、という心境に達したのだ。

 

...。

 

 

この度「右ハンドル」で「ドアが4枚ある」車がどうしても必要になり、私は悩みに悩んだ。

そしてここまでの車遍歴で、シビックからプジョー205→プジョー306とハッチバックが続いたように、プジョー205から306→306カブリオレプジョーが続いたように、プジョー306カブリオレからCLKカブリオレへとオープンカーが続いたように、連関を求めるなら次はメルセデス一択なのであった。

 

どう考えても私のライフスタイルに4ドアセダンは似つかわしくなく、ここはアングラーとして最も使い勝手が良いステーションワゴンにしようと色々と探すも、予算的条件に合うものに好みの車はなく、好みのものに予算的条件に合う車はなかった。

 

私は深く考えた。

 

今の愛車の気に入っている点とは何か、を。

カラーリングやボディ形状を除けば、それは「運転が楽しいこと」と「稀少性」に尽きるのだった。

この方向を突き詰めていくと、私はひとつの揺るぎ無い答えに到達したのだ。

 

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それはクリーン・ディーゼルという選択である。

 

つづく。